多くの不特定多数が訪れる商業施設において、災害時の安全確保と早期復旧は極めて重要です。本記事では、商業施設特有の課題を踏まえた実効性の高いBCP対策のポイントを事例とあわせて紹介します。
千葉県の駅ビル「PERIE(ペリエ)」を運営する株式会社千葉ステーションビルでは、東日本大震災の経験を踏まえ、商業施設におけるBCP対策を体系的に強化しています。同施設では、来館者と従業員の安全確保を最優先に、耐震化や防災備品の整備、自助・共助を意識した日常的な備えを推進しています。
さらに、災害時の情報断絶を防ぐためIP無線機を導入し、複数の通信手段を確保するとともに、定期訓練による運用習熟を図っています。また、食品・生活必需品店舗を優先的に営業する緊急営業体制を整備し、地域のライフラインとしての機能維持を重視。帰宅困難者の受け入れ体制や災害対応マニュアルの継続的な見直しも行い、営業継続と早期復旧を実現する実践的なBCP運用を進めています。
福井県内のショッピングモール9施設が加盟する「福井県共同店舗協同組合連合会」は、コロナ禍での業務停止や地震被害を教訓に、組織の枠を超えた広域連携型のBCPを策定しました。
最大の特徴は、単独店舗での対応に限界を感じ、「相互応援」を仕組み化した点です。地震や福井特有の「大雪」を想定し、被災した店舗へ人員や支援物資を派遣する協定を締結。さらに、商業施設を「地域の避難所」と定義し、行政との防災協定を通じて地域全体のインフラとしての役割を強化しています。
この取り組みは、中小規模の施設が手を取り合うことで生まれる「地域一丸となった強固な相互支援体制」を示す、非常に実効性の高い事例と言えます。
大規模商業施設におけるBCP対策の先進事例として、イオングループの取り組みです。同社では東日本大震災以降、事業継続計画(BCP)を発展させたBCMを推進し、施設安全対策、物流網の強化、情報システム整備、実践的な防災訓練、外部機関との連携を体系的に整備しています。
災害時には店舗を避難拠点や物資供給拠点として活用できる体制を構築し、自治体や自衛隊、電力会社などとの協定により地域支援を実現しています。商業施設を単なる販売拠点ではなく、地域のライフラインとして機能させる点が特徴であり、平時からの継続的な訓練と連携強化が事業継続力向上につながっています。
1,000名近くのテナント従業員が働いているイオンモール札幌平岡では、2018年9月6日に発生した胆振東部地震により、店舗も大きな被害を受けた経験があります。当時、従業員の安否確認は電話を用いて行われていましたが、停電していたこともあり安否確認を行うのに非常に苦労したという経験から、電話との別のツールの導入が検討されました。
その後、グループ会社のイオンモール株式会社がすでに導入していた、「緊急連絡網・安否確認システム オクレンジャー」を導入。新型コロナウイルスの拡大時、非接触の連絡ツールとして各テナントの責任者へのさまざまな連絡事項を伝えるツールとして活用されました。
胆振東部地震以降、巨大地震は発生していないものの、ツールのメンテナンスや定期的な訓練を行うなどして、今後の災害に備えていくとしています。
商業施設には多種多様なテナントが入居しており、災害発生時には情報の錯綜が最も懸念される課題のひとつです。緊急時に混乱を最小限に抑えるためには、電話やメールといった従来の手法だけでなく、安否確認システムやビジネスチャット、無線機などを活用した多重的な通信手段を確保しておくことが求められます。また、施設側からの一方通行な発信に留まらず、現場の被害状況をリアルタイムで収集できる仕組みを整えることも重要といえるでしょう。デジタルツールの導入によって、全テナントの状況を一元管理できるようになれば、迅速な意思決定が可能になります。
発災直後の初動対応において、施設運営側とテナント側の責任範囲をあらかじめ明確にしておくことは、非常に有効な備えとなります。具体的には、来館者の避難誘導を誰が行うのか、防火シャッターの作動や安全確認の担当は誰なのかといった項目を、詳細なマニュアルとして策定しておく必要があるでしょう。役割分担が曖昧なままだと、現場で判断に迷いが生じ、結果として二次被害を拡大させてしまう恐れが生じます。ディベロッパーと各店舗が共通の認識を持ち、それぞれの持ち場で主体的に動ける体制を築くことが、施設全体の安全性向上に直結するのです。
大規模な災害が発生した際、商業施設は来館者や近隣住民が一時的に避難する場所としての役割を期待される場面が増えています。こうした帰宅困難者への対応を見据え、水や食料、毛布といった備蓄品の管理体制を強化しておくことが望ましいでしょう。単に物品を揃えるだけでなく、収容スペースの選定や、滞在者への正確な情報提供ルートについても事前に検討しておくことが大切です。地域社会の一員として、緊急時にどのような支援を提供できるかを整理しておくことは、企業の社会的責任を果たす上でも大きな意味を持ちます。
施設の安全性を確認し、早期に営業を再開するためには、設備点検のフローを構造化しておくことが欠かせません。エレベーターや受変電設備といった基幹インフラの点検を優先的に行い、異常の有無を素早く判断できる体制が求められるのです。すべてのエリアを同時に復旧させるのが困難な場合には、生活必需品を扱うエリアを先行して再開させるといった、段階的な復旧計画を練っておくと良いでしょう。地域住民の生活を支えるインフラとしての機能を維持するため、限られたリソースをどこに投入すべきか優先順位を定めておきましょう。
策定したBCPを実効性のあるものにするためには、定期的な防災訓練を通じて課題を洗い出す作業が不可欠となります。単なる形式的な訓練に終わらせず、夜間や混雑時など、異なるシチュエーションを想定したシナリオを用いることで、より実践的な対応力が身につくはずです。テナント従業員も参加する合同訓練を実施すれば、組織間の連携強化にもつながります。訓練で見つかった不備や改善点をマニュアルに反映させるサイクルを繰り返すことにより、組織全体の防災意識が高まり、万が一の事態にも落ち着いて対処できる強靭な体制が構築されるでしょう。
商業施設におけるBCP対策は、資産を守るだけでなく、多くの命を預かる施設としての信頼を築くための重要な基盤となります。テナントとの連携を深め、多角的な視点からリスクを想定しておくことが、有事の際の被害軽減につながるでしょう。策定した計画を一度きりのものにせず、日々の運用や訓練を通じて継続的に見直しを図ることが大切です。
BCPツールは、災害発生時に早期復旧できるような仕組みづくり・体制づくりに役立ちます。とはいえ「いろんな種類がありすぎて選べない!」という方も多いでしょう。ここでは、おすすめのBCPツールを3つの目的別にご紹介します。導入を検討している方は、自社の目的と照らし合わせながらチェックしてみてください。

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